近年、がん治療は著しく進歩してきましたが、この過程でがん臨床試験の果たしてきた役割は極めて大きなものがありました。21世紀を迎えた今日においても、その重要性はますます増大していると思われます。
しかし、残念ながら、わが国におけるがん臨床試験は質・量ともに世界の趨勢から大きく立ち遅れています。Evidence-based medicineが謳われる今日、わが国で創られた evidence がどれほどあるのかを考えたとき、深い思いにとらわれます。欧米で創られた evidence をそのまま取り入れ続けるだけでは、果たしてわが国のがん治療の発展を約束することが可能でしょうか。遺伝子科学の飛躍的な発展からゲノム創薬の世界的な競争を迎えた今日、治験の空洞化がこのまま進んでいくことが何を意味するでしょうか。世界的な新薬を患者さんに使うことが出来ないもどかしさはいつになったら解消されるのでしょうか。わが国のがん患者さんは、新薬の恩恵に浴する機会を逸し、世界の新しい標準治療さえ一部は受けられない状況におかれているのです。
がん臨床試験の衰退と空洞化は、平成10年に新GCP法が施行されてから加速しています。現行制度下での治験、あるいはこれに準拠する医師主導型の臨床試験の実施に当たっては、細部に亘る手続きを要求され、厳密な試験の実施、データ管理、監査に多大の労力と費用を要するようになったことがその一因と考えられます。高度な臨床試験をスムースに実施するためには、これらの障壁を取り除いて臨床医のインセンティブを高めなければなりません。このためには、臨床試験を強力に推進するためのインフラを整備した恒常的な支援機構の設立が不可欠です。これは多くのがん臨床医が熱望しているだけでなく、広く社会からも強い要請を受けていると思います。多くのがん臨床医、基礎研究者が臨床試験に伴う事務処理から開放され、結集すれば、わが国においても欧米を凌駕する優れた臨床試験を行うことが可能であると確信します。
以上の背景から、現況を打破するため、私たちはがん臨床試験を強力に推進し支援する恒常的な研究推進機構の設立に向けて立ち上がりました。次のような基本構想を掲げて、がん征圧による福祉の増進を目指して行動します。
(平成14年11月13日 法人設立)
認定NPO法人
日本がん臨床試験推進機構
理事長 高久 史麿