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JACCRO e-Journal no.1(2007/04)

ASCO GI 2007 見聞記 大腸癌

埼玉医科大学 臨床腫瘍科
市川 度

今回のASCO GIシンポジウム 結腸・直腸癌領域では、現時点で5-FU、CPT-11、l-OHP、抗VEGF抗体(bevacizumab)、抗EGFR抗体(cetuximab、panitumumab)にすでに集約された感があり、 新規薬剤という点からはこれまでのような目新しい発表はなかったが、治療戦略という観点で重要な研究成果の発表があったと思う。

まず、切除不能大腸癌肝転移に対して術前に化学療法を施行してdown staging後に肝切除術を行うというstrategyに関しては、今が“旬”である。 肝切除で世界的に有名なHospital Paul Brousse Villejiuf (フランス)のAdam R.は、「Downstaging of liver disease for “cure”: is this the end of palliative chemotherapy」という タイトルで、自施設の優れた成績を示しつつ見事なレビューを行った。Careが目的の化学療法でCureが目指せる時代に突入しつつある一方で、FOLFOX、 FOLFIRIによる術前化学療法により正常肝組織の障害のため肝切除のmortality、morbidityが高くなっているという報告も散見される。 今回示された前向き研究のEORTC40983(Abstract #241)では、”Liver damage induced by chemotherapy had no obvious impact on surgical treatment”と報告された。 現時点でcontroversialな問題であり、今後報告される臨床試験の結果を待ちたい。

今回のシンポジウムの大腸癌領域で最も注目を浴びた演題はMSKCCのSaltz LBにより報告された 「Bevacizumab (Bev) in combination with XELOX or FOLFOX4: Efficacy results from XELOX-1/NO1699, a randomized phase III trail in the first-line treatment of metastatic colorectal cancer (MCRC)」(Abstract #238)であろう。

この試験は、@化学療法(FOLFOX4またはXELOX)+プラセボに対する化学療法+Bev の優越性、AXELOXのFOLFOX4に対する非劣性を2X2 factorial designで検討するものであり、 既にESMOではこれらの仮説が共に検証されたことがCassidy Jにより報告されている。ESMO発表時のデータでは、PFSは化学療法+プラセボ群の8.0ヵ月に対して化学療法+Bev群で9.4ヵ月と、 統計学的には有意であるもののわずか1.4ヵ月の差しか認められなかった。 このことは、Placebo+IFL vs Bev+IFL)のPFSにおいて6.2ヵ月 vs 10.6ヵ月と4.4ヵ月もの差がついた既報のAVF2107(NEJM 350:2335,2004)の結果と大きく異なるものである。 このため、欧米の腫瘍内科医の間では、Bevと併用する化学療法剤としてはl-OHPベースよりもCPT-11ベースのほうがよいのではないか、という議論まで発展していた。

今回のシンポジウムでのSaltzの発表は、この“PFS問題”に焦点を絞りNO1699試験を再解析したものである。 一般的に用いられるPFSとは「progressive disease (PD) or death of any cause」(“General” PFS)であるが、 AVF2107で用いられたPFSは「If PD or death occurred beyond 28 days of last study drug dose, patients is censored at the time of last scan showing non-PD」という ”On-treatment” PFSである。この”On-treatment” PFSは、換言すれば「治療終了(中止)28日以内のPDや死亡のみをイベントとみなす(即ち”On-treatment”)」ということになる。 ESMO発表時に用いられたPFSは“General”であり、今回”On-treatment” PFSでの結果が示された。その結果、Bevの上乗せによりXELOXでは2.5ヵ月、 FOLFOXでは2.2ヵ月の”On-treatment” PFSの延長が有意差をもって確認された。

本来、”On-treatment” PFSという手法は、PDが確認される前に毒性により割り付けられた治療を中止となり、移行した2次治療が有効であった場合などに、 本来のPFSをoverestimateする可能性から導入されたもので、別名”conservative” PFSとも呼ばれるようである。 しかしこの”On-treatment” PFSは、あくまでも臨床試験のプロトコールにおいて規定される物差しに過ぎず、実地臨床の現場での感覚により近いのは”General” PFSであることはいうまでもない。 DiscussantのMeropolは、臨床試験のデザインは実地臨床を反映する必要があり、解釈や臨床試験間の比較ができるデータ収集が必要であることを強調し、”On-treatment” PFSを皮肉った。

また、奏効率(IRC data)に関して、化学療法+プラセボ群 、化学療法+Bev群ともに38%と差がないことも報告され、発表したSaltz自身が”disappointing”とコメントした。 われわれの施設は本邦で施行中のBev+FOLFOXの安全性確認試験に参加しているが、個人的にはBevの奏効率やPFSにおける上乗せ効果に手応えを感じている。 今後国内の日常臨床の現場において臨床試験結果の整合性を“検証”することも重要と痛感した。

その他には、薬剤の至適投与量の決定をするうえで示唆に富むふたつの発表がなされた。 Van Cutsemらは、CPT-11+cetuximab療法を施行し有害事象の皮疹が出現しなかった症例に対してcetuximabの標準量投与を継続する群と皮疹を認めるまでdose escalationする群に割り付ける randomized phase II試験(EVEREST)(Abstract #237)を報告した。 Dose escalationにより奏効率は13%から30%へ引き上げられ、生存期間に関するデータが待たれる。 また、MayoのGoetzらはUGT1A1*28遺伝子多型によりdose escalationを行うphase I試験を発表した(Abstract #235)。 予想されたとおり、6/6のgenotypeではdose escalationが可能であった。 しかし、この試験で検討された化学療法はCPT-11/l-OHP/capecitabineという非標準治療であり、いわゆる標準治療での同様の検討が必要であろう。 これらの発表はpharmacodynamicsやpharmacogeneticsにより薬剤量を個別に決定しようとする試みであり、現在の一律な体表面積や体重による薬剤投与量の決定というstrategyとの比較が行われていくと考えられる。

過去において日本の大腸癌化学療法は、世界的な標準治療からは周回遅れという状況であった。 現在、その遅れは取り戻されつつあり、今年中にはモノクロナール抗体も国内に導入されるものと思われる。 薬剤の実地臨床導入後も、臨床試験・実地臨床の両面からpivotalな臨床試験の“検証”を行う必要性と、将来的な治療の個別化に向けての臨床試験は必須と思われた。 国内でもJACCROのような市販後の薬剤を用いた臨床研究グループのさらなる充実が望まれる。

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